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日々、偶景から (トップ) へ戻る
〈あの絵の中に入りたい〉
ある日の昼下がり、O駅のからのバスの中、通路を挟んで、五歳くらいの少女と
若い母が座っている。母は携帯メールに余念がない。ときどき溜息も漏れる。
「あっ、見て、マユね、あの絵の中に入りたい。入りたいよー」
「むりよ、そんなこと」
「だって、ドアだって、あるよ!」
「それでも、むりなの」と母から、また溜め息。
「きっと、入れるよ。入口だってあるもの」
娘は私の視線に気づく。急に声が大人をまねした口調に変わる、
「マユ、子供の夢をこわしちゃいけないと思う」。
母はふたたび「それでも、むりなの」と繰り返す。
いつもなら、微睡をさそう午後のバスである。
牧野記念庭園(練馬区)の冬の庭。
3月になると、大寒桜(バラ科)が咲くはずだ。
「植物の父」牧野富太郎の部屋。当時の地名は、北豊島郡大泉村上土支田。
天正15年から94歳で亡くなる昭和32年まで、研究と執筆のためにこの部屋を使っていた。
珈琲空間
いつも読書の時間を過しにいく喫茶「静かの海」。
いつも決まった隅のカウンター席。先客がいると、空くのを辛抱強く待つ。
カウンター席の前のやかんに映る自分の細く歪んだ顔をそっと遠ざけてから、本を開く。
神保町「さぼうる」の入口。「教室は空を飛ぶ」で使った喫茶店。
この赤電話には、冥界専用の回線がある、という話は聞いたことがない(たぶん)。