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『図書新聞』読書アンケート(2012年上半期)

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『図書新聞』(2012年7月21日号)に回答した2012年上半期の読書アンケートです。




  ① 保坂和志『カフカ式練習帳』(文藝春秋)
 
   書店で手にした瞬間、傑作であることを予感。それは断片形式の緒篇を読み進め
  るごとに確信へと変わった。以来、何度も至福の放心を味わっている。何が面白い
  のか、いつまでも語り続けられる気がする。なぜなら、どこまでも語り難いものだ
  から。『白痴』のムイシュキン公爵がバーゼルで驢馬の鳴き声に感動したとき、ス
  イス全体を好きになったように、この小説への感動で文学全体を肯定し、賛嘆した
  い気分がこみあげてきた。


  ② マシャード・ジ・アシス『ブラス・クーバスの死後の回想』
                      武田千香訳(光文社古典新訳文庫)
 
   64歳で11人もの大勢(!)の友人に見送られて肺炎で死去し、その後に作家
  になった男(「死者になった作者ではなく、作者になった死者」)の手記。19世
  紀末のブラジル文学に、かくも魅力的な奇想小説があったとは知らなかった。さま
  ざまな笑いを仕掛けた、ときにロレンス・スターンを思わせる語り=騙りに、「ペ
  シミズムという疥癬をいくぶん織り込んだ」味わいは大いに楽しめる。15年に及
  ぶ訳業は広く称賛されるべきだ。


  ③ カルロ・エミーリオ・ガッダ『メルラーナ街の混沌たる殺人事件』
                            千種堅訳(水声社)
 
   ガッダはタリアの前衛的な作家として文学史に名を残しているが、日本ではあま
  り知られていない。この小説は「40年ぶりによみがえる奇跡の《改訳決定版》」。
  ある屋敷で起こった宝石盗難事件と殺人事件の追跡が、展開の逸脱、思念の拡散、
  連想の飛躍へと脱線し、「解決」なるものを宙吊りにする破格のミステリ小説。作
  者の仕掛けた「謎」や「意味」を律儀に解読していく小説など、すべて退屈きわま
  るものだと改めて思った。